あ ば ろ ん

瀧昌史どんぶらこっこすっこっこ旅日記

なっすなす

目覚めればテントの中にも、快晴の気配が濃厚です。ブナ林を抜け、朝風呂をよばれに黒湯温泉に。東北ツーリング、2日目の朝、秋田県乳頭温泉郷でのはなしです。脱衣所に人の気配が無かったので、無防備で露天風呂に向かうと湯船に先客が。大ベテランかつふくよかな、旭天鵬似の美女です。ためらいました。混浴とは聞きましたが、果たして入っていいものか。笑いかけるか。旭天鵬的造作によるものか、美女の表情がいまいひとつ読み切れません。と、美女の口から「なっすなす」とのつぶやきが。いや「ぬっすぬす」だったかもしれません。そう聞こえました。
 え? という顔をしたからでしょう。美女は口を閉じ、秋田駒ヶ岳の方を向いてしまいました。厳密にはそれまでも視線は交わしていませんが、顔を向こうに向けたのです。それを「入ってよし」のサインと解釈し、静かにゆっくりと湯に。しばらくしましたが事態になんら進展はなく、いたたまらなさだけがコインパーキングの課金のように無慈悲に積算されていきます。すぐに土俵際に追い込まれ、ついには無言に寄り切られ、気がつけば風呂を後にしていました。以来、時に「なっすなす」とつぶやくように。自分的には「しょうがないけど、ま、いいか」的な独り言として、リユースしています。

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