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あ ば ろ ん

瀧昌史どんぶらこっこすっこっこ旅日記

においの不思議

新潮文庫版の『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦 』を読んでいたら、こんな一節に出会いました。〝においは不思議な記憶である。目か耳を通した風景や音とは違い、体の奥底にしまわれるように残る。しかしそこに刺激が与えられると、一気にふたが開き、怖いほど鮮やかな記憶が蘇(よみがえ)ってくる。〟 著者は下川裕治さん。自分的にも、そう強く感じた瞬間があったことを思い出しました。
 パリでラグジュアリーブランドのレセプションに招かれたときのこと。由緒正しいシャンパンをまずいただき、さてワインを、とソムリエのいるテーブルに行けば、赤だけでボトルが10本ほど並んでいます。せっかくだから今日ここでしか飲めないものを、と頼んでみると、ソムリエはテーブルの下から時代を帯びた一本を出し、慎重に抜栓。とても大きなボウルのワイングラスにそれを滴らせテイスティングを勧められました。ボウルに鼻を近づけた一瞬のことです。夏休みにいとこの家に遊びに行き、蛙とりに畦道を駆ける小学生の自分に出会い、ビックリしました。田んぼに張った水の甘い香り、稲の葉を揺らす風の青臭さ、午後の日差しを受けて立ち上る畦の泥の臭いが、寸分違わずしたのです。すぐにワインのラベルをナプキンにメモしてもらったのですが、ホテルに戻ったらなくしていました。だから今もあれは何だったのか、再現可能なのか、脳内のどのあたりのチャクラが開いたのか、謎のままです。まさに〝一気にふたが開き、怖いほど鮮やかな記憶が蘇(よみがえ)って〟きた瞬間でした

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