あ ば ろ ん

瀧昌史どんぶらこっこすっこっこ旅日記

憧れるのは走り往生

HONDA ジャイロ (GYRO) Xです。郵便配達の他、宅配ピザ等のデリバリー系でも活躍中です。前が1輪、後ろが1軸2輪の3輪スクーター、排気量49ccの原付一種です。車名のGYROはGreat, Yours, Recreational, Originalに由来。あまり知られていませんが1982年の発売以来、34年間フルモデルチェンジされていない希少種です。このジャイロXを街角で見かけるたび思い出すエピソードがあります。1980年代の終わり頃だったと思うのですが二輪専門誌の編集者だった自分は、 浅間ミーティングクラブ代表の中沖満(なかおきみつる)さん宅に連載エッセイ原稿をいただきに行きました。調布市内の一軒家で、その日は「読んで行きなよ」と言われ仕事場に。原稿用紙をめくれば、このジャイロXに乗ったあるおばあさんの話でした。70歳を過ぎてからジャイロXでバイクの楽しさに目覚めた彼女は、浅間ミーティングにも参加するようになり、一躍人気者に。そんな彼女がある日、湘南の国道134号線の路肩で休んでいたそうです。通りかかった人が、エンジンをかけたままハンドルにもたれている彼女に「どうしました? 大丈夫ですか」と声をかけたら、亡くなっていたとのこと。死因に不審な点はなく、老衰による自然死だったそうです。その見事な大往生ぶりが、淡々と描かれていました。
 「いやあ、見事ですね。こうありたいものですね」原稿を読み終え顔を上げ、中沖さんにそう伝えると「だろう?」という感じで頷いていました。今はもう、中沖さんも亡くなられてしまいましたが、ジャイロXを見るたび、その原稿を思い出します。立ち往生は弁慶ですが、走り往生とは。そうありたい、と思う気持ちは今も変わりません。ちょっと「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」な芭蕉っぽくもあり、な~む~。

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