あ ば ろ ん

瀧昌史どんぶらこっこすっこっこ旅日記

人違い

三河湾一望の露天風呂からあがり、脱衣所で涼んでいたときのこと。あれ、なんでここに父親が? 風呂場から父が上がってきたので驚き、近寄れば全くの人違いでした。体つきも顔も髪型も似ておらず、何で勘違いしたのか判りません。その後、浴衣を着て脱衣所を出たところで「暖まった? 忘れ物ない? この前もメガネ置いてきて大変だったでしょ、大丈夫なの…」と、いきなり見知らぬ女性に話しかけられました。タオルを畳みながら陽気に話す彼女の視線が上がり、自分を見た瞬間、フリーズ。「いや、こまっちゃう。すいません。間違えちゃって」と恐縮しきりです。先に風呂から上がり、男湯の入り口で夫を待っていたようです。笑ってその場を辞し、部屋に戻るべく廊下を、スリッパでペタペタ歩きながら、それにしても齢まわりが大分違うのに(自分の方が二回り以上若そうだった)なぜ間違えられたんだろう? と考えていて足が、止まりました。
 そうか、自分が父親に間違えたあの人の奥さん、か!?  たぶん、そうだと今でも思っています。部屋に戻ってタオルを干し、窓辺に腰掛け瓶ビールをいただきました。暮れゆく海を眺めながら、しばらく考えを巡らせましたが、その出来事に、教訓も結論も、オチすらも得ることはできません。そこにあったのは、あたかも凪いだ海面のようにフラットで純度の高い不思議だけでした

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