あ ば ろ ん

瀧昌史どんぶらこっこすっこっこ旅日記

「子どもの」いらないんじゃね?

オートバイの話をしばらく続けちょっと肩が凝ってきたので、神奈川県立近代美術館 葉山で「ブルーノ・ムナーリ」展を観てきました。その呼び込みのフレーズがなかなか良かったので、引用します。「画家、彫刻家、グラフィック・デザイナー、インダストリアル・デザイナー、発明家、著述家、子どもといっしょに遊ぶ人――あらゆる肩書きを持つ稀代の表現者ブルーノ・ムナーリの日本最大の回顧展を、ぜひお見逃しなく。」
 写真は、展示ブースをつなぐインターバル的スペースの壁面に書かれていたメッセージ。なるほど、教訓のないところがいいですね。「子どもの」を取って、シンプルに「心を」で始めてもいいかも、と思わず添削してしまいました。この後、彼が残した絵本のコーナーがあり、名著『たんじょうびの おくりもの』にはモトグッチ(MOTO GUZZI)の単気筒と覚しきオートバイが大きく描かれていてうれしくなりました。そうか!イタリア人かぁ、と納得しました

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Indian Scoutの男前

 乗りやすい! と、驚いた。拍子抜けしたと言ってもいい。低く、ぎっしりと身入りのいい筋肉質な風貌から想像した乗り味とだいぶ違う。まずエンジンがいい。回転は頭打ちになることなく、のびやか。例えば前車の追い抜きに、瞬時加速を得るべく少々無理なシフトダウンをしたとて、69 CU IN、つまり1130 ccのVツインエンジンらしからぬマナーの良さで、回転を合わせてくれる。水冷ゆえか、音にも振動にも粗暴さは皆無。こんなファーストインプレッションを得たバイク、前にもあったなぁ、としばらく考え思い出したのは、1986年に出たヤマハ FZX750だ。デビューしたその年に雑誌の取材で北海道 知床まで走り、驚いた。V-MAXの弟分的なフォルムから受ける印象は裏切られ、水冷DOHC5バルブ直列4気筒ジェネシスエンジンの素性の良さにより、至極健全明朗会計なツーリングマシンだったからだ。……実は、浅はかな自分はこのスカウトを、H-DにおけるSTREETR 750的な立ち位置モデルと勘違いしていた。まぁ、価格からしてSTREETR 750の倍ほどで、それは無理なカテゴライズだが、今回乗ってそれが全くの勘違いだと気づくことに。スカウトはとても理知的で、所有する楽しみに加え(以上に?)乗る楽しみを備えている。
 惜しいのは、このスカウト、写真映りがあまり良くない。実車はいいのに、写真映えしないバイク、というのは1970年代以降のドゥカティモトグッチBMWにもままあった。「映え」重視の現在はその逆、つまり写真では映えるが肉眼には弱い、というデザインも時折見受けられるが……。このスカウト、実車の方が男前だ。乗ると、さらに男前。そして男前な旅の予感を秘めている

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TRIUMPH BONNEVILLE BOBBER BLACKの大脱走

もし街頭インタビューでマイクを向けられ「何世代ですか?」と問われたら、自分は〝大脱走世代〟と答えると思う。人間形成は、ほぼ映画『大脱走』(The Great Escape 米 1963)によって成された。映画館で観た記憶は無く、小学生の自分はテレビで繰り返し観たのみ。ビデオもレコーダーも無かった頃、なぜ繰り返し観たかといえば盆暮れ正月ごと、本当に何度も繰り返し放映したからだ。前編・後編に分け週を跨いで放映したりしていた。お気に入りのシーンは、スティーブ・マックイーン(Steve McQueen)演じる米国航空兵、ヒルツがドイツ兵から奪ったトライアンフ TR6 トロフィー(笑)で国境の有刺鉄線を越えようとジャンプする場面。過去の視聴からその後捕まると判っていても、小学生の自分は「ひょっとして、今度は逃げきれるんじゃ?」と毎回固唾を飲みました。だからトライアンフは、自分にとって特別なブランドです。
 と、そんなひいき目を差し引いても、TRIUMPH BONNEVILLE BOBBER BLACKは素晴らしく良くまとまっていました。エンジンが極上。ピックアップ良好で、鼓動はあれど振動はそれほどでも無く、音もいい。ホースバッグでもレーシーでもない、いかにもブリティッシュスポーツなライディングポジションも乗りやすさに一役買っていて、あまり二輪車では感じたことのない〝高級感〟すら宿しています。ああ、このマシンがあったらヒルツも国境を飛び越え、逃げ切れただろうな、とジーンとしてしまいました。オプションでもいいから、シート下にグローブとボールのセットとかがあるといい。何のことか判らない方は、是非『大脱走』を観てください

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Ducati XDiavel Sの深淵

ドゥカティDucati)のディアベル(DIAVEL)を初めて目の当たりにしたのは、2011年の東京モーターショーでのこと。ドゥカティブースではなく、メルセデスブースでした。その前年にドゥカティAMGは、共同マーケティングのためにパートナーシップを締結。ディアベルAMGスペシャルエディションが誕生したのです。その翌年(2012年)4月にアウディドゥカティを買収したため、あっけなくパートナーシップは解消。その後〝ディアベルAudi Sport スペシャルエディション〟の発売には至っていないようです。
 ああこれは、運慶だな、と初めて見たとき思いました。2008年にデビューした2代目YAMAHA VMAXを見たときもそう思ったのですが、ディアベルはイタリアンマシン。それながらフィレンツェのアカデミア美術館ミケランジェロ像の傍らよりも、奈良東大寺の南大門、金剛力士像の足元にあった方が断然合いそうです。乗ってもその印象は裏切られません。エンジンは5000rpmで最大トルクに達する、まさに力士タイプ。ドスドスドスと朝稽古のつっぱりのような怒濤の加速。それにも乗っているうちに慣れ、降りた瞬間ふとそのフォルムが目に入り「こんなマシンに乗っていたのか!」と改めて感動したり。でも例えばアクセルオフ時の回転マナーが良かったり、クルーザーながらライディングポジションが意外に武闘派で、コントローラブルだったりと、理系な側面も。情緒と衝動のみで押し切る文系ではなく、意外に理詰めでできています。乗りやすいか、乗りにくいかと問われれば後者ですが、それすら魅力。だからバイクはやめられまへん!

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H-D FORTY-EIGHTのツンデレ

 オートバイとは艶めかしいもの。中学生で恋い焦がれた自分は、今でもドキッとすることがある。例えばこのH-D FORTY-EIGHT 115th ANNIVERSARYのウエストとか。ガソリンタンクとシートの間が実に艶めかしい。フレーム越しにゴツいシリンダーヘッドが丸見えで、ドキドキしてしまう。
 正直にいえばスポーツスターを、カジュアルなハーレーだと思っていた。今回何年ぶりかで跨がってみて、それは違うな、と。先に乗ったミルウォーキーエイト107Engを載せたスポーツグライドが矢沢永吉だとしたら、スポーツスター系のFORTY-EIGHT 115th ANNIVERSARYは忌野清志郎だ。鮎川誠(シーナ&ザ・ロケッツ)であり、シド ビシャス(Sid Vicious)であり、ジム モリソン(Jim Morrison)だ。スピードを上げた時の不吉な感じが絶品。スカルに跨がり地獄へ一直線♪ などと他愛ないハナウタが出てくる。重心は低く取り回しがラクで、車重はわずか252kg。Vツインエンジンはアイドリングから自由,自由,自由, 自由,自由と二拍子を刻む。そういえば、4年前に出たXL1200V セブンティートゥーもカッコよかったなぁ、ハードキャンディーカスタムはイケてたなぁ、と遠い眼に。スポーツスターは、見ると乗るとでは大違い。ひと言でいえばツンデレです。乗ると、ほぼ惚れてまいます

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H-D SPORT GLIDEの洗練

 2016年にローンチされた新エンジン、排気量1,745ccの「ミルウォーキーエイト107」が素晴らしい。パワフルはパワフル、だがそれよりも洗練の度合いが超絶高い。そのバイブレーションで、だいたい00km/hぐらいかな? とスピードメーターに目をやれば、驚愕の数値! 慌ててアクセルグリップを戻すことしばしばだった。55~75mph、時速にすれば88~120km/hあたりが快適クルーズゾーン。しかしそこからもスムーズにさらなる加速を続けようとする。感心したのは、2速でフルスロットルにしたときの怒濤で、音といいバイブレーションといいい、スピードのノリといい病みつきになるほど心地良い。ハーレー冥利に尽きてしまう。このモデル、ショベルヘッドエンジン(1966~84年)後期に登場した走りにこだわるビッグツイン、FXRの直系だと思う。エボリューションエンジン(1984~99年)になっても後継機が登場し、それがちょっと欲しかったことを思い出した。それゆえか、小振りなフェアリングもリア左右のパニアケースもデタッチャブル(脱着)式で、思い立ったらすぐカンタンに付けたり外したりできる。それも、とてもいい。
 自分がFXRS-S LOW RIDER SPORTを欲しくなったのは1989年のこと。その年3月にデイトナバイクウイークの取材に行き、ピーター・フォンダをインタビューする機会を得、その真摯な物腰にカブレてしまった。考えてみれば当時の彼は、映画『イージー☆ライダー』でワイアット(キャプテン・アメリカ)を演じてから僅か20年後、映画『だいじょうぶマイ・フレンド』でゴンジー・トロイメライを演じてからは6年後だったわけで、我がことながらカブレたのは当然だと思います。しかし、そのとき英国製の2気筒モデルを購入したばかりだったため、かなりの逡巡の後、諦めました。昨年11月のミラノ国際モーターサイクルショーでデビューしたばかりのニューモデル、スポーツグライドですが、どこかブルースを奏でるような側面もあり、その泣かせのシャウトをアクセルグリップでコントロールする快感を知ってしまうと、離れがたくなります

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モトグッチ V7 Ⅲストーンの一徹

 ああモトグッチだ! ちょっと震えてしまったのは、大磯から西湘バイパスにのってアクセルグリップをひねった2秒後。バルン、バル、バッ、バッバッバッバッバッバーッッッッッッと、いかにもモトグッチ的な定規で太い直線を引くごとき加速。OHV・Vツイン 744ccエンジンはトルクよりも先に、何時までも何処までも感を湧出。ただし52PS/6,200rpmの最高出力を誇っており、決して懐古主義的なエンジンではなく、マナーも素晴らしい。モトグッチとは〝魔法の丸太〟である。
 1990年代のはじめに、ミラノ国際モーターサイクルショーの取材でイタリアに行き、せっかくだからミラノの北のモトグッチ本社を訪ね、1000Sを借りフィレンツェまでツーリング取材したことがあります。ナビはおろか、スマホもケータイも、PCすら我が身の回りに無かった頃のその旅は、実にいろいろありました。バイクを借り受け、道に迷いに迷った末なんとかミラノの宿に1000Sを乗り付け、何処に駐めたらいいかマダムに相談すると「ジャポネがイタリアのブンブンに乗ってあらわれた!」と大騒ぎ。もう50年は開けて無さそうな、壁と同化していた扉を開け「ここに置け」と。中には埃とシーツを纏った数台のクルマがあり、1000Sの定位置は金色のシトロエンSMの隣となりました。それから波瀾万丈の旅が始まったのですが、その三十年近く前の1000Sと、今回乗ったV7 Ⅲストーンの印象がさして変わりません。もしバイクにも花言葉があったとしたら、MOTO GUZZIのそれは「一徹」だと、そう思います

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まもなく弘明寺、ぐみょうじです

京急電車に乗って弘明寺に行きました。写真は駅から大岡川に向かって下った先、弘明寺かんのん通りの中華料理店。まるで白夜書房が1980年代に出していた月刊誌『写真時代』の巻頭グラビアです。実存写真時代の店。まあ弘明寺商店街全体もかなり写真時代テイストなのですが。
 ところで弘明寺、実は「ぐみょうじ」と読みます。もう判っているつもりでも、ついつい「こうみょうじ」と読んでしまう。京急車内での「まもなくぐみょうじ」のアナウンスも、正直まだ「まもなく弘明寺」に変換できません

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「特牛」と書いて「こっとい」と読む。

川棚温泉山口県下関市豊浦町)の川棚グランドホテルに一泊した後、日本海を左手に国道191号線、北浦街道を東へ。途中、角島大橋に立ち寄ってから、写真の元乃隅稲成神社(もとのすみいなりじんじゃ)に着きました。先にある大鳥居上部には賽銭箱が置かれていて、見事賽銭を投げ入れられたら願い事が叶うとのこと。商売繁盛、大漁、海上安全、良縁、子宝、開運厄除、福徳円満、交通安全、学業成就と守備範囲もオールマイティです。写真だと北東北的ですが実際目の当たりにすると、景色にそれほどの湿り気はありません。
 角島大橋も、元乃隅稲成神社もよかったのですが、実は車中で最も盛り上がったのは、その30kmほど手前で特牛郵便局前を通りかかった時。「トクギュー郵便局? 吉野屋っぽい」とか言っていたら、その先に「特牛 -こっとい-」とルビ入りの表記が! 「こっといぃぃぃぃぃぃ?」と車内は、軽くパニック。調べたら、それは日本有数の難読地名とのことでした。焼き肉店でふと故郷を思い出したりしてしまいそうですね

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エルカミーノか、ランチェロか?

旅の途中、フェニックス(Phoenix、State of Arizona)郊外で朝食を済ませ店を出たら、駐まっていました。はて、エルカミーノ(Chevrolet El Camino)か、ランチェロ(Ford Ranchero)か? 朝から日差しの強い、からりと明るい荒野にあるべきクルマです。
 ナンバープレートをみれば「LCAMINO」とあります。なるほど! この2ドア クーペ ピックアップトラック、ぜひ復活させてほしい。そうなればクルマが玩具であり得た20世紀への、かけばえないオマージュになりそうです

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わたしの東京モーターサイクルショー

東京ビッグサイトで開催となった東京モーターサイクルショー 2018に行ってきました。ヤマハトライアル世界選手権Eクラスに参戦させる電動コンペティション トライアルマシン「TY-E」や、ホンダからリリース決定となった「スーパーカブC125」、「モンキー125」など、いろいろ興味深いモデルがありましたが、自分の足を最も長くとめたのは、写真のBMW R NINE T URBAN G/Sでした。
 既に昨年9月に発売なったモデルですが目に入った瞬間、中沖満さんの顔が浮かびました。手書きの連載原稿を、何の前触れもなく南青山にあったサイクルワールド編集部に届けてくれたことがあり、その際中沖さんが跨がっていたのがBMW R65 LS。ちょっと似てます。R NINE T URBAN G/Sは、1980年代のBMWモーターサイクルへのオマージュ臭濃厚です。自分的には'80年代への未練など無いつもりでしたが……欲しくなりました

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プロローグ? それともエンディング?

年に数度、気が向くと逗子(神奈川県)の自宅から江ノ島あたりまで歩きます。道草しながら三、四時間かけ、たいてい何処かでビールでもいただき、江ノ電横須賀線と乗り継ぎ帰ります。
 写真はそんな散歩中、稲村ヶ崎の先、家と家にはさまれた空き地で撮りました。なんだか片岡義男さんの小説のワンシーンのよう。プロローグなのでしょうか、それともエンディング? ちょっと気になりました

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ターンパイクに今日もおいてけぼり

箱根ターンパイクという、小田原から箱根に駆け上る観光有料道路があります。写真はこの週末に大観山から眺めた芦ノ湖と富士山。日本画のような雲でした。もうすぐターンパイクは桜のトンネルをくぐって走る、美しいワインディングになります。NEXCO中日本の子会社が運営管理、ネーミングライツ制となり「TOYO TIRES ターンパイク」、「MAZDA ターンパイク箱根」を経て現在は「アネスト岩田 ターンパイク箱根」になっていました。アネスト岩田とは、横浜市港北区にあるコンプレッサとスプレーガンの会社だそうです。
 ターンパイクを走るたびに思い出すのは片岡義男さんの『箱根ターンパイクおいてけぼり』という小説。集英社文庫コバルトシリーズから上梓されたのが1978年(昭和53年)ですから、自分は主人公の〝山根秀明くん〟と当時同い年。バイクもおおいに愛していたので、盛大に感化されました。かえすがえすも残念なのが、というか自分の不幸は、両手をミニスカートの腰に当てて立ちふさがってくれる姿のいい若い女教師〝イトー先生〟がいなかったこと。そのやる方ない憤懣(ふんまん)が、やがて40年がたとうとしている今でも、ターンパイクを走るたび小噴火します。セツナイです、ツライです

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男坂、女坂

大山詣をカジュアルにする大山ケーブル(神奈川県伊勢原市)のきっぷです。今やレアな硬券です。発券時既に単純な四角い切欠きの鋏が入っていました。紙質は硬めですが、国鉄硬券のような厚みはなく、どちらかといえば子供鉄道のおもちゃのきっぷに近い感触です。
 ふとした思いつきで登り片道乗車にして、帰りは歩こうと登山道に。下りはじめてすぐに右手女坂、左手男坂の分岐があり、なんんだか香西かおりさんの歌みたいだなぁと思いつつ、ふと左へ。これが思いのほか険しいルートで、バテました。香西かおりといより村田英雄です。途中何度も足が止まりました。次は女坂にします

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クルマには屋上がある

クルマには屋上があるということを、猫にも教えられました。長野県、松本の北の湖畔キャンプ場にいたら、いい風合いのTOYOTAランドクルーザーがやってきました。ブルブルッという余韻を残しエンジンが停止。車中の人がキャンプ場受付棟に入ったら、何気なく猫がやってきて、何気なくルーフトップへ駆け上がり、何気なく毛繕いを始めました。
 それを正面から眺めていた自分と、目を合わせません。まるで自身の天守閣、ルーフトップから下々を見下ろすかのような塩梅で、くつろいでいます。絵になるなぁ

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