あ ば ろ ん

瀧昌史どんぶらこっこすっこっこ旅日記

風に吹かれて

 いつもの散歩コースで、光明寺鎌倉市)前から材木座海岸に出たら、ちょうどワカメを干していました。数日前から干場ができていたので、今年は早いなと思っていたのですが、ついにワカメ漁解禁です。洗濯ばさみに挟まれたワカメが風にそよぎ、春を告げます。
 砂浜に落ちたやぐらと洗濯ばさみの影が、美しく律儀でいかにも和風。青い洗濯ばさみと白い洗濯ばさみのバランスも絶妙です

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夜明け前、八戸市営魚菜小売市場にて

 八戸(はちのへ 青森県)市街から4kmほど海に向かい、新井田川(にいだがわ)を渡った先に八戸市営魚菜小売市場があります。その市場の奥にある『朝飯処 魚菜』が好きで、何度か雑誌で紹介しています。今回たずねたのは二玄社から刊行されていた頃のCAR GRAPHIC(カーグラフィック)連載記事のため、2009年の8月(掲載は同年10月号)に取材して以来。ほぼ10年ぶりですが、雰囲気は変わってません。市場は朝3時からで、一杯100円のご飯が炊き上がるのは午前5時頃。そのご飯と、市場内で買った刺身、焼魚、お惣菜などをテーブルに並べ、各自勝手にいただきます。
 椅子に座ったらまず、ほうじ茶の入ったポットの花柄に目を奪われました。電話がかかってくれば何年ぶりかに生で聴くベルの音! 道を挟んだ向こうにはJR八戸線陸奥湊駅(むつみなとえき)があるのですが、そこから響いてくる発射の合図もピキー!という汽笛風で、なんだか昭和一色です。長靴を履いた健さんとか寅さんとか、黒板五郎さんとかがふらり「しばれるね」と現れそう。ある意味異空間ですが、それにしても完璧です。ご飯も美味しかったけど、21世紀どころか平成アイテムすら全く見当たらない、高純度の昭和景色に深い感銘を受けました、ご馳走様でした

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中華街の春節に迷う夜

 いま横浜中華街は、2月5日の春節(しゅんせつ)に向け一層華やかに。横濵關帝廟(かんていびょう)や横濵媽祖廟(まそびょう)は言うに及ばず、関帝廟通りにある山下町公園(山下公園ではありません)入口、會芳亭(かいほうてい)の脇にもこんな龍が置かれていました。會芳亭、現在は休憩用の東屋ですが、かつてここには会芳楼という劇場兼料理屋があったとのこと。その後、清国領事館が置かれたという由緒ある一角です。
 その関帝廟通り、夜なにかのタイミングでふと人通りが途絶えると、春節を祝う提灯が妙に寂しげで、映画『千と千尋の神隠し』の冒頭、親子三人が迷い込んだ街を思い出させます。そのほんの一瞬、割と好きです

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ゆびづめ注意と恵方巻き

 1980年に大学生となった自分が、大学のある大阪に住みはじめ違和感を感じたことのひとつに「ゆびづめ注意」があります。電車やバスの扉付近にある注意書きで、それが指を挟まぬよう注意しましょう、の意と気つくのに、やや時間がかかりました。なんだか語感が恐いなぁ、すごく痛そうだなぁ、取り返しのつかないことになりそうだなぁ、と見かけるたび、ドキっとしました。
 先日大阪で地下鉄に乗った際、脈略無く突然「ゆびづめ……」を思い出し、ドアを確認すれば「扉に注意」の表示のみ。手のイラストがクラシックだし、印刷もかすれ気味で、それすら年季が入っている感じです。後日調べたら、大阪市営地下鉄(現・大阪メトロ)で「ゆびづめ注意」から「扉に注意」にスイッチしたのは1986(昭和61)年とのこと。当時、節分にその年の恵方を向いて無言で巻寿司一本食いすると縁起が良いとされる「恵方巻」にも強い違和感を覚えましたが、今やまさかの全国的メジャーに。……やっぱり「指詰め」は恐すぎたんだろうな

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抜き足、差し足、忍び足

 鎌倉の材木座海岸由比ヶ浜とを分かつ滑川(なめりがわ)河口です。現在かつてないほど材木座海岸寄りに蛇行して、海に注いでいます。蛇行ゆえ流れが緩慢で、散歩で通りがかるたび、河口でいろんな鳥を見かけるようになりました。先日は鴨の集団が、さかんに首を波打ち際に入れていました。
 その日は白サギが一羽。白サギは『抜き足、差し足、忍び足』のリズムで歩き、いったん歩を止めると動かず気配を消します。真っ白なので眩しいほどに目立ちますが、立ち居振る舞いは忍者のよう。しばし川を挟み一緒に沖を眺めました

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なぎさ通りのユディトⅠ

 鎌倉まで散歩した帰路、逗子駅からなぎさ通りを歩いていたら左手、居酒屋の軒先に作品です。いいえ、シャッター画ではなくその右手、黒い布に被われた案件です。包まれているのは信楽焼のたぬき。そう、まっぱで編み笠を被り少し首をかしげ、右手に徳利、左手に大福帳を持った縁起物のアレです。以前から、ここにたぬきが居るのは知っていました。いつ頃からか黒布で被われていたことも。元旦に何かが気になりよく見たら顔の部分がビニール張りとなっています。チラッとのぞくその表情は、クリムトGustav Klimt 1862-1918)が1901年に描いたユディトⅠのよう。外が見えるようになったのは慶事ですが、呼吸はツラそうです。
 もう一度よくよく眺めれば梱包芸術家として名高いクリスト&ジャン=クロード(Christo&Jeanne-Claude)の初期作品のよう。あ、赤瀬川源平かも! 謹賀新年。

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九州の手触り

 潮が引き、縞々の干潟が現れた真玉海岸(またまかいがん:大分県豊後高田市)は、国東(くにさき)半島に位置し、周防灘(すおうなだ)にむかって西に開けているため、夕陽の美しさで知られた景勝地。映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で門脇麦演じるセリがREBORNを歌った、あの干潟です。門脇麦はいいですね。この前、休日の帰路に高速道路の上り渋滞を避けるため、とある地方都市の名画座で彼女主演の『止められるか、俺たちを』を観たら、これが大変沁みました。
 その門脇麦も立った真玉海岸には『ゆうひ』という眺めのいい蕎麦カフェがあります。周防灘フェリーで徳山(広島県)から国東半島に渡り真っ先にここに寄れば、小鹿田か小石原か、そば猪口に飛び鉋が踊っており、その手触りで「ああ九州だ」と実感できます

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迷っています、悩みます。

 夏好きの自分としては日に日に寒さが増し、日が短くなるいま時分がちょっとツライのですが、反面いいこともあります。写真は小笠原 父島 二見港の桟橋ではなく、三浦半島の南端、城ヶ島(神奈川県三浦市)で撮りました。対岸は三崎港、すぐ横に26年ぶりに新造された神奈川県漁業取締船 たちばなが係留されている桟橋の先端です。どんより淀んでいることが多いのですが、初冬快晴のその日は、どういう潮の入れ替わりかはっきり海底が(投棄自転車まで)見え、片口鰯の群れが行き交っていました。
 澄んだ青い海に冬到来を実感。すぐそばの城ヶ島漁協直売所の食堂で心太(ところてん)を食べようか、冷えそうだからやめておこうか、鰯を見ながら迷っています、悩みます

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五十鈴とISUZU

 奈良の天河神社天河大弁財天社 奈良県吉野郡天川村坪内)へ行くと、古来より伝わる独自の神器、五十鈴(いすず)のちょっとSFっぽい造形に驚かされます。参拝後、境内周辺を散歩していたら、裏手すぐの材木店軒下にいすゞエルフ トラックが駐められていました。ISUZUのロゴデザインから察するに、1990~'93年に生産された4台目ELFの後期型かも。SITECのエンブレムも凜々しく、OHCディーゼルエンジン搭載を誇っています。たしかカスタムでは、ファーゴ、アスカ、ビッグホーンの上級グレードと共通の赤モケット内装も選べたはず。それにしても25年以上稼働しているトラックとは思えないほど美しい。あたりは吉野杉の本場ですから、ご商売柄かなり使い込まれていると思うのですが……。
 と、感心した後「あ、五十鈴だ!」といまさらながら気がつきました。天河神社の象徴的神器にちなんで「ISUZU」を選び、神器なみに大切にしているとか……。五十鈴とISUZU、偶然ではない気がします。想像が膨らみます

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動物園前駅×男の美学

 御堂筋線堺筋線が交差する動物園前駅(大阪府大阪市西成区)で大阪メトロを降り、飛田本通商店街のアーケードを歩いていたら、壁面にこんなメッセージが。
 書体、Q数、レイアウトともに見事です。20を二十と書かなかったところがセンスですね。短文に「男」が4回も出てきます。大阪好きには、何の予習もせずに動物園前駅で降り気の向くまま地上に出て、あてどなく彷徨うのがおススメです。そこで今日もリアル大阪があなたを待っています

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このバスは三崎口駅発 城ヶ島行き

 城ヶ島(神奈川県三浦市三崎町城ヶ島)へは、京浜久里浜線の終着駅、三崎口駅から京急バスで行くことができます。その城ヶ島停留所一角に、この自動販売機はありました。お金を投入すると「いつも京浜急行バスをご利用くださいましてありがとうございます」とアナウンス。コーヒーを選びボタンを押すと「このバスは三崎口駅発 城ヶ島行きです」と再びアナウンス。
 よく見れば、上部行き先表示が「城ヶ島」となっていました。側面にタイヤがありますが、高さの割に前後町が短いためすごく不安定な印象。今にも前のめりに倒れてきそう。ヘッドライトまわりの妙に緻密なタッチも気になります。設置されているのが横浜トリエンナーレの会場で、実は時間を描くネオ漫画家、横山裕一作品だと説明されたら「なるほど!」と、納得しそうです

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生マグロの至福

 オートバイで走り続けていると、腹は空いているのに、何か食べるのがとても面倒に思えてくることが多々あります。バイクをとめ、グローブをとりヘルメットを外しジャケットを脱ぎ、財布を持って知らない店に入り、知らない人々に囲まれてひとり食事をするのが、とてつもなく億劫です。だったら、走り続けよう。雨ともなるとなおさらで、秋に和歌山を走っていたときもそうでした。朝食を五條(奈良県)のコンビニで済ませ、昼食抜きで那智勝浦(和歌山県)で走り、雨のなか港のホテルへ。脱いだレインウエアを部屋に干し荷をを解くと、猛烈な空腹感の逆襲にあいフラフラと外へ。鮪(まぐろ)の湯、という足湯の傍らにある勝浦漁港にぎわい市場に入ったら、生マグロとサンマ寿司を売っていたので迷わず手にして、一目散にテラス席へ。
 いつの間にか雨は上がっていました。改めて見れば、マグロの切り幅が豪快で、いかにも那智勝浦。係留された延縄漁船、宮崎県門川町からおいでの第八長久丸に敬意を表しそのお尻を眺めつつ、いただきます!……ああ、美味しゅうございました

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路地裏だより

 「路地裏の名店」が慣用句となり「路地裏、なのに名店」がいつしか「路地裏、イコール名店」に替わった感があります。まあ、地代の高い首都圏の表通りには利益率高めの店が居並ぶこととなり、ある程度の真理でもあるのですが。
 首都圏を離れひょんな路地裏を歩いていると、ここは夜寄ってみたいなあ、と思う店に出会うことがあります。ホルモン焼『松竹』もそうでした。人の気配はありませんが店先、七輪の上に置かれたアルマイト鍋からは一筋の湯気がおだやかに上がっています。少なくともここ十年は見ていなかった、昭和な景色。つい2週間程前の写真ですが、撮った自分でさえ、なんだかそうは思えません

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田宮、タミヤ、TAMIYA!

 プラモデルのメジャーメーカー、タミヤの本社(静岡市駿河区恩田原)には事前申込制(当日受付不可)の歴史館、実車展示コーナー、ショールーム、オフィシャルショップがあります。歴史館には初期の木製模型からはじまる、これでもか! というほどのタミヤコレクションが一堂に。さながらタミヤの海で、すぐ溺れそうになります。実車展示コーナーには、世界に1台の1/1スケールミニ四駆 エアロアバンテ、6輪のF1マシンとして名を馳せたタイレルティレルではありません)P34、JPS ロータスFORD 91などが。その向こうにイエローボディのスバルR2(2st Engのほう)がチラ見えしているのがラブリーです。ショールームでは発売中のタミヤ製品を展示、それらのキットはタミヤショップで購入可能です。訪ねるたび、いつも思うのですが小3の頃の自分を連れて行ってあげたい場所です。
 見学を終え駐車場に戻ったら、営業車とおぼしきクルマが。無塗装風ホワイトボディに、タミヤデカールだけ貼ったかのよう。小3の自分が見たら、恐らくこれにもちょっと興奮したと思います

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舟戸の番屋

 伊豆東海岸の今井浜(静岡県賀茂郡河津町)の隣にある露天風呂が好きで、時々ツーリング途中に寄ります。これからの季節、オートバイで冷えた体をあたためると極楽です。冷えた体にはどんな湯も熱く感じます。そろりそろりと入り、しばらくつかって、まわりを見たりしながら湯加減を確かめます。ところが自分が行く平日午前中はいつもひとりきりで、湯加減がいまいちわかりにくい。10月に行った時は、湯が熱すぎて気がついたときは全身真っ赤に。先日はぬる過ぎて、湯から出られなくなりました。入浴後もオートバイで走るので、ぬるま湯地獄にハマると後が大変です。
 晴れていれば、いつ行っても眺めは最高です。舟戸の番屋が管理していて入浴料は300円です

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